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〈鷲ぬ鳥節〉

(1)三味線を弾く

 しばらく練習しているうちに、工工四の表す漢字と押さえる場所の関係は覚えられたと思います。
 すでに、〈鷲ぬ鳥節〉の歌持は、弾けるようになっているはず。CDを聞いていただくとわかりますが、普通、歌持を2回弾いてから歌に入ります。

 中工上 合四上 工中上 合四上 中工上 合四上 工中上 合四上

 これで、歌持2回分。続いて歌の部分になります。最初から歌を歌うのは無理でしょうから、まず、曲の最後まで三味線だけを弾いてみることにしましょう。慣れれば、CDに合わせて弾くのもいいですが、CDの音と自分の三味線の音を合わせなければなりません。自信のある方はどうぞ。

 今の段階では、1つの音を鳴らすたびに、工工四−左手−右手と、目が移動していることでしょう。歌持の部分なら、練習している間に正しい音を耳で覚えてしまったはず。勘所や弾く弦をまちがえたときは、自分の耳ですぐに気づきます。三味線を正面にきちんと向けて(こうすると、手が見られませんね)弾いてみてください。手を見ることがクセになっているだけで、見ないでも弾けているということが多いものです。

 さて、後は歌の部分です。もちろん、最初は歌わないで三味線だけを弾きましょう。リズムに気をつけて、最後まで弾いてみてください。


(2)歌う

 いつから歌の練習に入ればよいか?
 いつでもいいです。
 「まだ、三味線が完全に弾けないから」
 なんて堅いこと言わないで。三味線も歌も同時にうまくなるつもりで練習してだいじょうぶです。
 「そんなこと言ったって、歌はむずかしい。三味線を弾きながらはとても・・・」
 という方は、歌だけを覚えてみてはいかがでしょう。
 家で家事をしながら、風呂で、トイレで、寝る前に、どこでもけっこう。歌を聞いてください。無理に覚えようと思うと辛くなりますから、BGMのつもりで、音を流しておくだけでいいんです。そうすれば、歌が身に付いてきます。そのうち、CDに合わせて口ずさめるようになっているでしょう。
 「ああ、三味線だけなら楽しいのになあ」
 と思う方は、どうぞ三味線だけを練習してください。三味線がスラスラ弾けるようになったころには、きっと歌も歌ってみたくなるでしょう。そのときに歌の練習をしても遅くはありません。

(1) 歌詞
 沖縄には、《歌三線(うたさんしん)》という言葉があるように、歌と三味線は切っても切れない関係です。もし、歌を教えてくれる人が側にいてくれたら、いっしょに歌っていくうちに覚えられるのですが、この本はそのような人がいない方々のための本です。CDを先生だと思って、歌を覚えましょう。


 あやぱにば まらしょうり
 ぶぃるぱにば すぃだしょうり
 バスィヌトゥルィヤウ ニガユナバスィ

 しょんがづぃぬ すぃとぅむでぃ
 ぐゎんにづぃぬ あさぱな
 バスィヌトゥルィヤウ ニガユナバスィ

 あがろかい とぅぶぃつぃけ
 てぃだばかめ まいつぃけ
 バスィヌトゥルィヤウ ニガユナバスィ


 以上が、〈鷲ぬ鳥節〉の歌詞です。
 なんとも、難解な言葉。おそらく、一言もわからないという方がほとんどでしょう。工工四を見てください。歌詞が漢字仮名混じりでまとめて書いてあります。《大山(うふやま)ぬ・・・》から始まって、10行の歌詞が書かれています。そのうちの最後の3行(《○》印のついている歌詞)を歌うのが一般的です。たくさんの歌詞が並べられている曲では、よく歌われる歌詞に《○》印がつけられていることがあるんです。
 間奏(1番と2番の間、2番と3番の間)は、歌持を1回弾きます。

 では、1番の歌詞を漢字仮名混じり文にして書いてみましょう。

 綾羽ば 生らしょうり
 ぶぃる羽ば 産だしょうり
 バスィヌトゥルィヤウ ニガユナバスィ

 漢字を混ぜると、分かる言葉もあります。工工四には、このように書かれているわけです。でも、ルビのうってある漢字、うっていない漢字もあってこのままだと読みかたがわからない。困ったことです。八重山の歌をたくさん知っていれば、「あ、この漢字は○○と読むんだな」と想像がつくようになりますが・・・
 「歌の意味が知りたい!歌の背景も知りたい!作者が知りたい!」
 という、まじめな方もおられるでしょう。そのような要望に応える書籍があります。

 『八重山民謡誌』・『八重山古謡』、どちらも喜舎場永じゅん(王へんに旬)著、沖縄タイムス社刊
 =これは絶版になっていています。読みたければ図書館ということになりますが、大阪府立図書館にはありませんでした。

 南島歌謡大成・八重山編、角川書店

 日本民俗誌大系 第一巻沖縄、角川書店
 =喜舎場永じゅん著『八重山島民謡誌』が収録されています。

 これらの書籍に書かれている歌詞は、工工四と違う場合もありますが、歌の意味を知る手だてにはなると思います。
 〈鷲ぬ鳥節〉の歌詞を簡単に解説しておきましょう。ただし、解釈は人によって差の出るところですので、ご了承ください。

●美しい模様の羽に生まれ
●元旦の朝
●東の太陽に向かって飛び立った

 八重山の古謡(こよう)では、同じ意味を違う言葉で2度表現するという手法が多く採られています。この〈鷲ぬ鳥節〉は、もともと〈鷲ゆんた〉という古謡でしたので、《2度表現する》手法がみられるのです。
 《○》のついていない歌詞では、山のあこうの木に巣をかけて、卵を産んだというところまでが表現されています。

(2) 発音について
 さて、歌うには発音ができなければなりません。もう一度、1番の歌詞を見てください。《ぶぃ》《すぃ》《ヤウ》といった、あまりお目にかかったことのない表記があります。
 《ぶぃ》も《すぃ》も、《ぃ》が小さい文字であることにご注意。
 五十音図の《う行》の文字に、小さな《ぃ》がついた場合、次のような発音をします。
 まず、《い》と言いましょう。口(くちびる)は、やや横に引っ張られて横長になります。歯は、かんだ状態。口はその形のままで《す》を発音してください。それで、おおよそ《すぃ》の発音ができたはずです。《すぃー》とのばしても、《い》や《う》になりきってはいけません。あいまいな音のまま伸ばすのが正しいのです。
 《すぃ》の他に、《くぃ》《るぃ》も同様の方法で発音してみましょう。《くぃ》は、《い》の口で《く》です。《るぃ》は《い》の口で《る》です。
 《ぶぃ》も同様に、《い》の口で《ぶ》を発音します。このとき、上の前歯が下唇に一瞬ふれるようにするといいと思うのですが、八重山出身の方はどう思われますか?
 正確な発音は、CDを聞くのが一番よいでしょう。同じ歌でも、八重山出身の歌い手が歌ったものでなければ、正確な発音は聞けません。あの有名な嘉手苅林昌さんは沖縄本島出身の方ですので、〈鷲ぬ鳥節〉の正確な発音はできていません。(八重山でも、島によっては《すぃ》の発音のないところもあります)
 《ヤウ》は《ヨー》と発音すればいいと思います。
 《ぐゎ》は、
 《かーえーるーのーうーたーがー きーこーえーてーくーるーよー・・・・
   ゲロゲロゲロゲロ グワ グワ グワ》
 この《グワ》に似ています。《ぐ》《ゎ》を二つの音にしてはいけません。《ぐゎ》で1つに聞こえるようにしてください。
 これらのことに注意しながら、歌を覚え、三味線を弾きながら歌えるようになれば、「あい!ヤイマピトゥ?(あら!八重山の人?)」と疑われることでしょう。あなたは《沖縄》の人より《八重山》の人らしく歌えているはずです。
 《とぅ》は、英語の《to》と同じです。《てぃ》は《レモンティー》の《tea》、同じように、《どぅ》《でぃ》等の表記も発音できるはずです。

(3)歌いながら演奏する
 そろそろ、苦しくなるころです。『楽しみながら練習しましょう。これが大切ですよ』と書いてきました。しかし、やはり新しいことをやるのですから、それなりの努力は必要。ちょうど、今がいちばん苦しいときだと思います。
 三味線だけを練習していたときには、「お、けっこう簡単じゃないのー、ルン ルン ルン」だったと思います。(そうでなかった方、ごめんなさい)ところが、歌の練習に入ったとたん、難しくなりますね。特に、1曲目をクリアするまでが最も苦しいときです。
 声を出しながら、両手で三味線を弾くというのは、考えただけでも難しそう。やってみると、やっぱり難しい。
 車の運転を考えてください。手でハンドルを操作し、足でアクセルとブレーキ。マニュアル車ならクラッチとシフトチェンジもしますよね。車の運転をしてみるまでは、こんなに複雑な作業を一人の体でできるのだろうかと不安になりました。でも、慣れれば特別に意識しないでも体が覚えた通り動くものです。車が変わっても、知らない道でも、一度覚えた運転技術を応用することができるものです。 そのうち、運転しながら眠ることまでできるようになる人(しないほうがいいですよね)もいます。
 歌三味線も同じです。《弾きながら歌う》ということが、1曲できるようになれば、2曲目3曲目は驚くほど簡単にできるものです。たとえば、1曲目に1カ月かかったとしたら、2曲目は3週間(ま、曲にもよりますが)。うまくなれば1日で1曲なんてことも(ま、人にもよりますが)可能です。ここであきらめないで、自分のものにしてください。

* いつから次の曲に移ればよいか
 これまた、いつでもいいです。一度に2曲やるのもいいかもしれません。
 1つの曲を完成させるまで、他には一切手出ししない!という強い意志で練習し、苦労を重ねながら少しずつ上達していく自分が好き。というのもけっこう。いろんな曲を楽しみながらゆっくり練習したいという方もおられるはず。
 どうすれば早くうまくなれるのか、を追求するより、どうすれば途中で投げ出さないで続けられるかの方が大切だと、私は思います。


△おまけ−4
 音楽に自信のある方。工工四を見ると、どうやら歌い方も書いてあるらしいぞと気づかれたことと思います。そうです。メロディーも書かれています。しかし、これがくせ者。あなたのCDを聞いて工工四と比較してみてください。違うところがいっぱい。
 理由の1つは、《流派(師匠)の違い》です。流派が違えば、メロディーはおろか、歌詞までかわってくることがあります。
 もう1つは、《工工四のあやまり》です。これまでに何度か改訂されているので、最新版では《あやまり》は無くなっているのかも知れませんが・・・・。
 八重山民謡の《声楽譜》が登場したということだけで偉業です。先人の努力と業績に水を差す気持ちは毛頭ありません。でも、八重山民謡においては、工工四を《目安》だと思って、歌は耳で覚える方がいいと思います。
 琉球古典では工工四通りに歌うことが基本になっているようです。


△おまけ−5
 自分の歌をカセットテープに録音して、聞いてみましょう。
 今までにカセットテープに録音した自分の声を聞いたことのない方は、是非一度やってみてください。スピーカーから流れてくる自分の声を聞いて、「これ、だれの声?」とか、「いやだー、へんー」とか、なかには「あら、このカセットこわれてる!」なんて言う方がおられます。
 他人の声は、外の空気を伝わって耳に届きます。ところが、自分自身の声は、体の中も伝わってきますので、他人の声を聞いたときとは響き方がちがうようなのです。カセットテープに録音して聞けば、自分の本当の声(他人が聞いているあなたの声)が聞けます。「えーこれが本当の私の声?こんなへんな声いやだーーーー」と落ち込まないで。それは、へんな声ではなくて、《聞き慣れない声》なのです。何度も聞いていると、慣れてくるものですよ。 それに、あなた以外の人はいつもあなたの本当の声を聞いているのですから、何の心配もいりません。


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